映画の一刻 ~日常とシネマの旅~ 第23便『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』2018.08.25sat – 08.31fri @シネマ5

大分の中心市街地、五番街にひっそりと佇む小さな老舗映画館、シネマ5。
メジャーな映画ではなく、いわゆるミニシアター系の映画を上映している映画館だが、その映画選びは個性的。

一時期東京でも流行った、ファッション的要素の強いミニシアターではなく、どこか日本の奥ゆかしさを秘めている。

個性的な映画選びだが、ちゃんと幅広い層が楽しめるようにもてなしてくれる。
そして何より空間が素晴らしい。

そのシネマ5副支配人である大西さんにシネマ5&シネマ5bisで上映される映画の中で超個人的にオススメな映画を紹介して頂く、映画の一刻(ひととき) ~日常とシネマの旅~。

今回の旅は、『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』
どうぞ、お楽しみください!

『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』

毎日、こう暑いと変になりますね。
タラタラと汗が流れる。
ダラダラと人生も流れて行っているようで…。

ーーーーー

映画館で働くと、世間が休みの時が稼ぎどき!
ここぞとばかりに営業するものだから、夏休み、冬休みは働き時だ!

でも、私の親も世間の人。
離れて暮らす両親は「盆、正月くらい、休みはないの?」と
いつも電話をかけてくる。

お盆前、時期をちょっとずらして、
久しぶりに、実家に帰ると81歳の父は車椅子の生活になっていた。
若い頃は真っ黒に日焼けした肉体労働者で、がっしりした健康体でしたが、
すっかり細く痩せてしまっていた。
そして、何をするにも全てに介護が必要になっていた。

私といえば、人に寄りかかることも支えることも、
あまりに少なすぎて、人に近寄るのも苦手になっているらしい。
両親の体さえどんなふうに触ればいいのか、
手助けすればいいのか、言葉をかければいいのか、戸惑うばかり。

両親=じいじとばあばの話し相手は、気のやさしい高校生の姪っ子。

彼女と両親の微笑ましいやり取りを見ながら、半日を実家で過ごして、
私はまた、私のテリトリーへと戻ってきた。

なんにもしない親不孝な娘として、
毎回、サラリと冷たく去って行く。

小さな幸せの中には、悪魔は入り込めない。

ひと度、自分の欲求にまかせて生きると、
大切な何かを、大切な誰かを傷つける。
そして、私の今のように、ぬるい汗をダラダラ流しながら
悪魔に加担してしまうのかもしれない。

ーーーーー

今回、案内するのは『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』

アニメーションだけれど、これは絵と言っていいのか?
というほど輪郭線が、形を作る役割を担っていない。
線の一本一本が意思を持っているように自由に動き登場人物の心情を語っている。

まるで風が吹いて、舞い上がった空気が立体を作り出し、
それが意思を持って動く竜巻のように。
そして、それに飲み込まれて、スクリーンの中に吸い込まれる。

素晴らしい!傑作。

この映画は、グリム童話の「手なしむすめ」を現代の解釈でアニメーションにしたものです。

貧困で苦しむ男の前に老人が現れ、男の家の裏にあるものと交換で富をやろうというので、男は老人と約束をしました。すると突然、家の横に黄金が吹き出しました。富を得た男が交換するのは、家の裏にあるリンゴの木だと思っていましたが、交換するのはその木の上に登っていた男の娘でした。約束を交わした老人は悪魔で、約束通り娘を奪いに来るのですが…。

悪魔は、女性や子供などに姿形を変えて現れ、娘を連れ去ろうとしますが、どうしても娘に近づけません。。。

ーーー
娘は渡したくないが、富も手放したくない男。

人は自分で必死に努力して手に入れたものよりも、
ラッキーな棚ぼたで手に入れたものの方に、なぜか執着する。

可愛がって育てた娘。
その娘と妻に少しでも楽な暮らしをさせたいと悪魔との約束を交わしたのに、
突然湧き出た黄金を手にした途端、娘を手放す方を選択する男。

ーーー
おとぎ話はいつも人々を風刺しています。
この作品も時代を超えて、現代でもドキッとさせられます。
悪魔は人間の心の奥底の黒い淵ギリギリに人々を立たせて、
落ちて行くのを今か今かと、楽しんでいます。

生きるために、お金を稼いでいるはずが、
いつの間にか、お金を稼ぐために生きているみたいになって、
幸せが欲しくて富を求めたのに、富があれば幸せだということになって
誰かを踏み台にしてまでも、富にしがみ付き、我を忘れてしまう。

悪魔は今ごろ、覗き見して笑っているのかな。

悪魔と約束を交わした大人たちよ、
この映画をぜひ見に来てください。

笑えたら、あなたはもうすっかり悪魔?
笑えなければ、まだ間に合うの?

まぁ、傑作ですから、損はありませんよ。

『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』
監督|セバスチャン・ローデンバーグ
出演|声:アナイス・ドゥムースティエ 少女、ジェレミー・エルカイム 王子、フィリップ・ローデンバック 悪魔、サッシャ・ブルド 庭師、オリビエ・ブロシュ 父
配給| ニューディアー
2016年 / フランス / 原題 La jeune fille sans mains / 80分
©Les Films Sauvages-2016

【上映期間】
2018.08.25(土) – 2018.08.31(金) 〈1週間限定〉

【上映時間】
昼11:50  夕5:15

【会場】
シネマ5
大分市府内町2丁目4-8
TEL 097-536-4512 / FAX 097-536-4536
オフィシャルサイトhttp://www.cinema5.gr.jp

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

TOP

PR

Yadorigiでコラムを書いてみませんか?

取材・掲載についてのお問い合わせ

Search