再訪のひと 「ルーシー」

2015年8月18日(火)、大分合同新聞朝刊にて発表された佐伯市出身の小野正嗣による芥川賞受賞後初の書き下ろし短編小説「再訪のとき」

皆さん、読まれましたか?

現在、開催されているおおいたトイレンナーレ2015の参加アーティスト、高山 明(PortB)・小野正嗣・林 立騎(Port観光リサーチセンター)によるプロジェクト「大分メディアコレジオ」。

「大分メディアコレジオ」とは?
かつて豊後府内に存在したキリスト教の教育施設「コレジオ」を、現代の「メディア」とともに蘇らせるというプロジェクトです。

小野正嗣の「再訪のとき」を受けて、新聞・テレビ・ラジオ・ウェブが様々な角度から作品を構築していきます。
Yadorigiではウェブ媒体として、「再訪のとき」をより楽しく拡げていこうと思います。

先日、掲載されたYadorigiの人気連載「カモシカと青空」では、グサグサと突き刺さる岩尾くんの本音を頷きながらもドキドキしながら読み進めましたが、最後は賛美歌みたいに包み込んでくれました。

どう書くか、誰に伝えるか

物書きの技術とは凄いものです。

そして各メディアが返した声を高山 明・小野正嗣・林 立騎+竹井成美(宮崎大学名誉教授)はどう捉えるのか?
8月30日(日)15時より赤レンガ館(大分銀行ローンプラザ支店)講堂にて開催される「大分メディアコレジオ集中講座」が今から楽しみです!
定員120名、先着順で予約不要です。

話がそれましたが、Yadorigiでの「大分メディアコレジオ」関連企画第2弾は「再訪のひと」。
一度は大分を離れ、再び戻ってきて大分で活躍する人にフォーカスしていく新企画です。

第1回目は「再訪のとき」でも話題になった演劇について、大分に戻ってきた演劇人「ルーシー」の姿に迫ります。

 

以下、インタビュー

 

Yadorigi編集長 一尾(以下、一尾):まず自己紹介からお願いします。

ルーシー・ラブグッドウィル〔劇団不在〕(以下、ルーシー):ワタクシの名前はルーシー・ラブグッドウィルです。幸せな名前になろうと付けました。

一尾:最近、ルースィーからルーシーに変わったようですが?

ルーシー:文字数を減らそうと思って。イベントなどで場所取るんですよ、場合によっては二段とか。デザインの人、困らせちゃうので。

一尾:それだけ?笑。演劇を始めた、興味を持ったキッカケは?

ルーシー:大分大学に入学して何か部活を始めようと思った時に、もともと小説とか好きだったんですけど、そういうのを書く部活っていうのが思い当たらなくて。でも演劇って脚本とか書くものがあるなって思って。

一尾:じゃあ演じるっていうよりは脚本を書きたいっていう方が?

ルーシー:脚本だけ書こうと思って入ったんですけど。いろいろやらされていく内に。いつの間にかこんなんなっちゃって。笑

一尾:笑。じゃあ大分大学にもそういう勉強をしようと思って入った訳じゃなく?

ルーシー:全然。それまで演劇なんて。何この格好悪いの、みたいな。笑。発声練習とか人前で大声出してる、うわっ恥ずかしいな、みたいな。

一尾:そもそも大分大学に入学したのはなぜ?

ルーシー:入れたから。笑

一尾:笑。生まれは確か新潟だよね?

ルーシー:生まれは新潟で、育ちは高校まで北九州。で、大分大学に進学して。6年通いましたね。笑

一尾:6年!?大学時代はずっと演劇を?

ルーシー:演劇部は3年間。それから劇団を立ち上げて、、とかしてたら卒業できなくなっちゃって。

一尾:演劇部のときから脚本を手掛けてたの?

ルーシー:そうですね、2年生のときから演劇部で脚本を書き始めて。演劇部終わっても演劇やりたいなと思って、他所で出演させてもらったり、自分で立ち上げたりで6年間過ごしてましたね。

一尾:小説を書くことと脚本を書くことの違いで意識することはある?

ルーシー:ありますね。最初、高校生時代とかは小説みたいなものを何もわからず書いてたんですけど、特に知識もなく。どちらかというと脚本を書くことの方が勉強してて。だから脚本がベースで、逆に小説を書くってなった時にどこまで心情表現をすればいいのか、文字に起こせばいいのか。脚本はもう台詞だけですべてを表現するので、それに慣れちゃってて。その違いですかね。逆に小説を書く時に台詞以外のとこをどうやって表現するんだろうと悩むんじゃないかな。

一尾:いわゆるト書きの部分?

ルーシー:ではないですね。この台詞を言った人はどんな心情で言ってるのかとか。ト書きは台詞と台詞の間で俳優がどんな動きをするのか、頭を抱えてたりするかもしれないし、何か別のことを考えてるのかもしれない。そういう方向性を決めてあげるのと自由度を持たせてあげる差が脚本を書くのは面白いです。

一尾:なるほど。始めて大分に来たときの印象は?

ルーシー:電車が少ねぇなぁって。笑

一尾:笑

ルーシー:少ないし、本数も少なければ、繋がってる数も少ない。笑。電車乗ってたらどんどん家が無い方に連れてかれるから、これ本当に大丈夫か!?って思って。それが第一印象ですね。

一尾:北九州で育って、これまで買い物に出掛けたり、遊びに行ったりしてた生活のリズムは大分に来て変わった?

ルーシー:んー、あんまり街に出なくなりました。笑

一尾:笑

ルーシー:それまでバス移動だったけど、そもそもバスないし、高いし、と思って。

一尾:大学時代の住まいは?

ルーシー:大分大学の近くにずっと。

一尾:じゃあ家と大学の往復だ?

ルーシー:はい。あとはスーパー行って。笑。友達と遊ぶのが多かったですね。演劇ばっかやってて、バイトもそんなしてなかったから車もないし、バイクもないし。自転車と電車だけだったですね。バイクを手に入れてからは、あちこち遊びに行けるようになりましたけど。基本ずっと友達と酒飲んでましたね。笑

一尾:笑。酒飲んでるときの会話はやっぱり演劇のこと?

ルーシー:演劇の話してましたねー、仲間と。

一尾:それは自分達の演劇について?それとも他の劇団についてとか?

ルーシー:自分達のですね。こうしたい、ああしたいって。先輩達のやり方に常に批判的な目で見てたから。笑

一尾:笑

ルーシー:これはおかしいんじゃないか、とか。じゃあどうしよう、こうしたいって。で、3年生の時に大きい公演があって。その時は先輩がいなくなってて自由にできたので、その公演に向けてああしよう、こうしようって夢を語り合ってましたね。

一尾:大学を卒業してからは?

ルーシー:3年間で5本くらい自主公演をやって。その後、北九州に戻りましたね。北九州には2年間いたんですけど。北九州に戻ってから劇団に入ったんですよ。入ったんですけど、入った劇団で失敗しちゃいまして。これ、どこまで言っていいのかわからないですけど。笑。まぁ合わない。個人的に合わない劇団で。笑

一尾:もともと自分の劇団を持ってたのにまた別の劇団に入ったのはなぜ?

ルーシー:いち劇団員として勉強しようと。そこそこ有名なところに入ったんですけど。やり方がとにかく合わなくて、ワタシと。ワタシが悪いんですけどね。笑。で、半年もしないうちに行かないようになって。笑

一尾:笑

ルーシー:頑張ってやめて、、それからしばらくは演劇をやってなかったんですよ。

一尾:でも2年間は北九州にいたんだよね。

ルーシー:友達と遊んだり、映画を撮ったり、バンド組んでライブやったり。あとひたすら映画を観てましたね。バイトして1日1本、映画観てっていう生活をずっと続けてました。

一尾:それは演技の勉強も兼ねて?

ルーシー:そうですね、それに映画通の人が演劇の世界には多くて。そういう人達と仲良くなるにはどうすればいいだろうって考えた時に、あっ映画だ!って思って。下心から見始めたんですけど。今は普通に映画好きになっちゃって。いっぱい観ましたね。でも演劇やりたいなってずっと思ってて。でも、なかなかチャンスがないっていうか、やれなくて、、で、そんな時に大分の人達が心配してくれてですね。「帰って来んの?、帰って来んの?」とまで言われちゃって。

一尾:一緒に劇団やってた人達に?

ルーシー:はい。もう、そう言われると寂しくなっちゃって。帰ろうかなぁって。大分で演劇やろうかなって。

一尾:こっち(大分)が地元みたいになっちゃったね。笑

ルーシー:演劇的には大分しか知らないから。演劇的地元はやっぱり大分。こっちで甘えて演劇やろうと思って。笑。

一尾:大分に戻ってきてどれくらい?

ルーシー:2年目ですね。

一尾:じゃあ変わりゆく大分も見てるんですね。

ルーシー:職場がちょうど駅の麓に。

一尾:麓!笑

ルーシー:だから駅の改装中からずっと、ここ2年間は見てて。新生大分駅の歴史をずっと見てました。笑

一尾:笑。でも大学時代の大分の街は全然知らないもんね。

ルーシー:全然。一ヶ月に一回出てくるくらいでしたからね。都町とか飲み屋とかも知らなかったので、こっちに戻ってきてから連れ回してもらったりで、ちょっとずつ開拓してきました。以外と新しいんですよね、大分って。旦野原(大分大学付近)以外は。笑

一尾:笑。演劇の世界だけで言うと、県民性って出る?劇団によってももちろん違いはあると思うけど。

ルーシー:いやぁすごい出ます、県民性が。九州のあちこちの劇団観に行くんですけど。福岡は福岡内でまた違って、北九州はプロレタリアな感じなんですよ。労働者の町だからやっぱり労働者目線の芝居が多かったりするんですよ。福岡はもうちょっと派手なのが多いですけどね。明るかったり、ビジネスだったりの話が多い。イメージですけどね。大分は最近だと戦争のとか、地方の土着の話から引っ張ってきたり野津の吉四六の話だとか、田舎的な話が多いように思います。

一尾:逆に都会的な芝居はあんまりない?

ルーシー:知らないだけかもしれないけど、ないですね。大分の街ってふわっとしてるイメージで。これが大分の街だ!っていうのが掴めてないんだと思います。みんなそう思ってるんですかね。

一尾:確かに。

ルーシー:唐揚げについて書くのも違うし。

一尾:それも大分市街地じゃないし。笑。これまでに演じた役、もしくは書いた脚本の中で一番面白かった役は?

ルーシー:最近、実話を基にした話を書いて。全然会ったことない人なんですけど。人妻のお爺ちゃんがHビデオ万引きしちゃって、しかもそのビデオの内容が義父が息子の嫁に手を出すものばかりで、嫁が困るっていう話を書いて。その嫁さんが主人公だったんですけど。あれを考えてるときは面白かったですね。万引きの話だけはあって、そこから切り取って膨らましたんですけど。きっとそういうことが起こったら困るだろうなって。笑

一尾:今後、嫁は義父にどう接すればいいかわからないもんね。笑

ルーシー:そういう書き方したのは始めてだから、あの役は思い入れがありますね。笑。可哀想な人を書くと面白いっていう説があるんですけど、それは確かに面白いなと思って。新たな道が開けた気がします。あまり役から書かなくて、面白そうな話を考えて、そこに役を乗せて、役のキャラクターは役者にお任せしたりもするから、あまり思い入れのある役はないかもしれません。笑

一尾:笑。今日、芝居の稽古を人生で始めて見させてもらったんですけど。台詞を言いながら、動きを入れながら、その人物像というかキャラクター設定を役者と作り上げていくんだなっていうのを知って。基本的に演劇ってああいう風に作られていくものなんですか?バチっと細かい人物像まで決めて、その通りにやらせることもある?

ルーシー:本当に人それぞれで。ワタシはバチっとやるのは嫌いで、バチっと決めたら役者が死んじゃう。役者の発想とかが消えちゃうのが怖いと思ってるから、なるべく役者は自由度高く、粘土をこねるようなイメージで自分で役を作っていってもらいます。演出家はそれをどう配置するかとか活かすのが仕事で、役者同士でもそれぞれ作ったものを出して影響し合いながら1つの舞台ができあがっていくのが好きです。フワッと作っていきます。笑

一尾:そういうのは演じる側からしたらどうなんですか?

矢田未来(以下、矢田)
:ルーシーさんの演出って、難しんですよ。本当に自分が頭を捻って考えないと。ま、当たり前なんですけど。要求してくることが高いんですよね。だから凄く鍛えられるし、最初はそのやり方が意味わかんないって言って、凄いケンカも。笑

ルーシー:笑

矢田:怒鳴り合ったね。

ルーシー:なんでそんなテキトーなの!?って。なんで考えてきてないの!?って。

矢田:何なのー!?って言って。私はわかんなかったから、始めて一緒に2人でやったときは。

ルーシー:たぶん矢田さんはこれまで全然違うタイプの演出家の下でずっとやってきて、そこで育ってるから。常識の外のことをワタシはやってたから、、常識の外のことをやられると人って怒るもんね。笑

矢田:ごめんなさい。笑

ルーシー:最初は受け入れられないと思う。それこそ矢田さんが前いたところも、なんでそんなことやってんの?って、ずっと思ってて。あれはあれで一つのやり方だと、ちょっと大人になったんですけど。笑

矢田:この間、一人芝居をやったんですけど、、

一尾:困ったお嫁さんの話?

矢田:そうです。その時に本当に上手く出来ないって自分で思ってて。難しいなぁって。ちょっと悄気てたんです。でも今日、稽古の時に前の芝居の成果が出てて、上手になったって言われて、本当ー!!?って。単純に喜んでました。笑

ルーシー:一緒にやってる役者が上手になると、やる気が出ますね。ちゃんと時間が進んでる!と思って。笑

矢田・一尾:笑

ルーシー:一歩一歩進んでるかもしれないって。

矢田:大分では私たち歳も近い方ですからね。距離感掴むのが最初はなかなか難しかったですけど。

ルーシー:大分に戻ってきてから一緒にやり始めたから。時間で言うと、そんなに経ってないんですけど。

矢田:でもほとんど一緒に居ません?毎日。もう嫌だー!!

ルーシー・一尾:笑

一尾:大分に戻ってきて、この組み合わせになったのは?

矢田:torero camomilloっていう劇団に所属してて、そこの同じ俳優同士なんです。

ルーシー:前に大分に居た時からお世話になってる。

矢田:劇団に入って共演したのがキッカケでした。それで冬に劇団不在の旗揚げ公演をしようと思ってるって誘ってくださってっていうところから、ずっとずっと今に繋がってるっていう感じです。

ルーシー:同じペースで芝居してる人が身近に矢田さんくらいしか、、定職に就かず。笑

矢田・一尾:笑

ルーシー:演劇に生活のほとんどを注ぎ込んでやってる人が。

矢田:フリーターでやってる人はそんなに居ないかもしれないですね。お互いにいろいろな危機感を背負いながら。笑

一尾:定職に就かないっていうのは、この世界で生きていく意思表示でもあるんですね?就けないじゃなくて、就かない!

ルーシー:そうですね、就けない、、就けない、、就職活動自体したことがないから、就かないということに。笑

矢田・一尾:笑

一尾:今日観せてもらった稽古の舞台が10月18日(日)にAT HALLで行われるということなんですが、どういう舞台なんですか?

ルーシー:これはどういう舞台になるのか、、

一尾:稽古観てても全くわからなかったので。笑

ルーシー・矢田:爆笑

ルーシー:今回の発想が美術家の田中愛理ちゃんの作品を観て、こんな面白い事をする人がいるんだって思って。人前で公共の場で食物を塗ったアクリル板を挟んで友達同士だったり、カップルだったり、見知らぬ二人が舐め合うだけのアートがあって。それを最終的には映像にして、実際舐めたものと展示してたんですけど。それを観た時に、うわっなんて汚いんだ!って思ったんですよ。人が舐めたものを人前に晒すなんて!って。

矢田:私が最初にやったんですよね。田中愛理ちゃんと友達なので、こういうのやるんだけど協力してもらえない?って声かけてくれて。

ルーシー:それで初めて知って。

矢田:たまたま、そのあとに愛理ちゃんと会う機会があって、ルーシーさんとも会ったんですよ。ルーシーさんにこういう事してきたんです!って言ったら、、

ルーシー:思わず、うわっ汚ねぇ!って言っちゃって。笑

矢田:その時はドン引きしちゃってたんですけど、残るものがあったみたいで。まさか一緒にやることになるとは。

ルーシー:展示を観たら凄い影響受けて。演劇はこんなこと出来ないなと。ぜひ、その感覚を舞台に持ち込んでほしいと思って、一緒にやりませんか?って。そこからインスピレーションを拾って、おまけのように本を書いている。で稽古を始めた段階なので、自分でもどんな作品になるかわからないんですよね。笑

一尾:笑。愛理ちゃんの作品と今日の稽古が全く一致しないんですけど、、

ルーシー・矢田:笑

矢田:私もしてないです。笑

ルーシー:笑。あの感覚ですよね。人前で汚いものって言ったらアレですけど、痕跡を残すような、、演劇じゃない、生のライブ感を共有できるかなって思ったんです。人前に出るってことは何をするにしても人は演じてると思うので。脚本がないだけで、あれは演劇のジャンルだと勝手に思ってるんです。その辺の面白いパワーを得て舞台に持って行けたらなと思ってます。

一尾:今はまだ漠然としてますが、10月18日の本番まで、これからルーシーがYadorigiで書いてくれる稽古日誌「劇団不在、創作現場の汗と汁(ルーシー)」によって明らかになっていくんですね?

ルーシー:なります!ドラマのない演劇をやろうと。初めてのことをやろうとしてるので稽古日誌を追っていけば、作り方が見えたりする、、といいですね!笑

矢田・一尾:笑

ルーシー:あとから稽古日誌を読み返して、また勉強になるかもしれないし、自分自身も。そういうのを期待してます。

一尾:稽古日誌と舞台本番を楽しみにしてます!ありがとうございました!

ルーシー・矢田:ありがとうございました!

一尾:最後にあなたにとって大分とは?

ルーシー:自分を作ってくれた土地です。

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